こんにちは
入院患者さん、とくに赤ちゃんの基本的な処置に不慣れになってしまわないように、と考えて、 クリニックを開院してからも隔週で、元いた病院で夜間当直に入らせていただいています。
先日そちらで、10年ほど前に主治医をしていた超低出生体重児のご家族に、偶然お会いしました。
今はもう小学生で大きくなられているとのことでしたが、 夜に救急車で生まれた病院まで、救急車で大急ぎで迎えに行ったこと(救急車を乗り入れる場所がわかりづらくて、僕はカバンをもって走ったのでした)、
息も絶え絶えになった赤ちゃんを見た時のこと、 必死で連れ帰ってきたこと、
その時のご家族のこと、思い出されます。
このブログを見ることがある、とのことでしたので、一応、「見てる~!?」と言っておきますが、
加えて、「僕はNICUでは補助係であった。君を助けたのは僕ではなくて部長の手腕だ」ということは、 口を酸っぱくして言っておこうと思います……。
閑話休題。
抗菌薬の処方について
最近はだいぶん少なくなったのですが、とくに高熱を出している患者さんなどで、 この症状に抗菌薬なしで大丈夫か?と聞かれることがあります。
たいへん簡単に説明しますと、 子どもの感染症には「ウィルス」が原因のものが多いのですが、「細菌」が原因となることもあって、 抗菌薬はこの細菌に効果のある薬です。 ウィルスには効きません。
風邪はほとんどが、ウィルスによって引き起こされますから、抗菌薬は使用しないのですね。
抗菌薬には副作用もあり、社会全体で使用量が増えると、抗菌薬の効かない耐性菌が増えてしまう、という大問題があって、 2000年代くらいから、必要でない抗菌薬は処方しない、という方針が徐々に徹底されるようになりました。
それ以前は、(効果がほとんどなさそうでも)処方されることが多かったので、「抗菌薬なしで大丈夫か」という疑問につながるのだと思います。
もちろん、処方しないのが正義、というわけではなく、きちんと対象を見極めて、必要と思われる場合には使用することが大切です。処方を避けようとするあまり、患者さんに害があったら本末転倒ですからね。
使用する場合には手加減をせず、しっかりとした量を定められた期間、使用することがとても重要です。
実際には判断に困ることも多いのですが、個人の方針として、そのような場合は血液検査をするなどして、
ウィルスなのか細菌が疑われるのか、できるだけ区別しようと努力しています。
また、「いろいろな菌に効果のある薬」は、先ほどの「耐性菌が増えてしまう」問題を助長する可能性が高いので、できるだけシンプルな、攻撃ターゲットを絞った薬を優先して使用するようにしています。
なお、一応ご説明しておくのですが、2018年4月から、「抗菌薬の使用が必要ないとき、その旨ご説明した場合」に、診療報酬が加算される仕組みがあります。
が、当院はこの仕組みを使用しておりませんので、 別段、処方しなければ処方しないで儲かるとか、そういうことにはなっておりません……。
当院の抗菌薬処方傾向(医療従事者向け)
さて、ここからは患者さんではなく、同業の方に当院の状況をお知らせするための部分です。
書いてみたところ、ディープな話になってしまいました。ご了承下さい。
2018年の1月に、開院してから半年間の抗菌薬使用状況をお伝えする記事を書いたのですが、今回はその続編です。
まず、当院での抗菌薬処方率の推移をグラフ化してみました。自分でも驚いたことに、患者さん当たりの抗菌薬処方率は、どんどん下がっているようです。
次に、抗菌薬の系統別内訳をみてみます。個人の処方傾向は、意外に目にすることがない情報だと思います。
処方の半分くらいはペニシリン系が占めており、その傾向は当初からあまり変わっていないようです。
その中ではありますが、第1世代セフェムや、TFLXを使用することは、やや増えているようですね。
第1世代セフェムの増加
第1世代セフェムは、ケフレックスが1日2回内服で使いやすいので、 溶連菌に対してAMPCではなくこちらを案内することがあります(AMPCを1日2回で処方してしまうこともあります)。
なかなか1日3回10日間って、内服させるの難しいですよね。
共働きのご家庭が増えてきているのだから、処方内容も変わっていくべき、というスタンスで、こうなってきているのかなと思います。
TFLXの増加
TFLXについては、最近の耐性動向として耐性インフルエンザ菌BLPACRを目にすることが多くなり、その流れで処方が多くなっています。
以前のインフルエンザ菌で耐性と言えばBLNARが多くを占めていたわけですが、 耐性菌問題から、処方される抗菌薬の主流が第3世代セフェムからペニシリン系に回帰したことにより、ベータラクタマーゼ産生菌の割合が増えている、、、というのが近年の動向であると理解しており、
自分の処方もそれに合わせて、AMPCを多めに処方して何とかしようという方向性から、TFLXを早めに使用する方向性に変わってきているようです。
このようなデータに、正しい割合があるわけではないのですが、
他の医師がどんな薬をつかっているのか、というのは、案外表に出てこない情報ですので、今回、自分のデータを作って晒してみました。
後半はだんだんマニアックになってきまして、全く患者さん向けの情報ではなくなってしまいましたが、
診察でお話しできる時間が短くて申し訳ないなあと思いつつも、意外にいろいろ考えて処方しております、ということで、ご理解いただければと思います。