よしだこどもクリニックのブログ

京田辺市三山木駅前 小児科医院のブログです

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百日咳がどのような病気か知っていますか

こんにちは。



今年に入ってからの百日咳の流行は、非常に大きなものとなりました。最近は落ち着いてきている印象です。


近年の百日咳の届け出数は下のグラフのようになっています。
2025年はまだ半年も過ぎていないのにこの数ですから、流行が大変な規模であったことがわかります。

IDWR 2025年第22号 より引用


流行の中で、残念ながら複数の赤ちゃんが亡くなられたと聞きます。本当に残念で悲しいことです。ご冥福をお祈りいたします。



感染された方の多くは、抗菌薬の投与で数日で改善されたと思います。そのような方には、意外と軽く済んだという経験になったことでしょう。

一方で、当院に受診された方のなかにも、辛く止まらない咳が何日も続いた方がいらっしゃいました。それほど多くはないので、社会の記憶には残らないかもしれません。



そのような中に、やっと生まれた赤ちゃんを亡くされたご家族がいらっしゃることを思うと、いてもたってもいられない気持ちになります。
報道はされましたが、我々が感じているような重みほど、重く捉えていただけたでしょうか。



誰しもあることだと思うのですが、自分が仕事等でよく知っている分野のことは、本当に悲しいこと、危険だと思うことがあっても、分野外の人にはなかなか伝わらない、今回はそのような経験の一つでした。
インフルエンザでもコロナでも、子宮頸癌でも同じようなものですが、ほとんどの何事もない経験のなかに、本当に耐えがたい経験は埋もれてしまいがちです。記録に残して将来の改善に繋げていかなければと思います。


百日咳から赤ちゃんを守るには

百日咳について言えば、生後4ヶ月までに3回の予防接種があり、そこまでたどり着けば、ひとまず命の危険のある病気ではなくなります。
ですが、出生直後の赤ちゃんは無防備です(母親も免疫をもっていないので、赤ちゃんにも移行しません)。



そのような出生直後の赤ちゃんを守るためにはどうすればよいのかというと、2つのことが考えられます。


年長さんと11歳でワクチンを

一つは、百日咳になる人の全体数を減らすことです。百日咳感染者がもっとも多いのは、小学生です。これは、出生時に接種したワクチンの効果がちょうどなくなってくる時期であることと関連しています。



日本では、出生時からの四種/五種混合ワクチンが終わると、それ以降は百日咳ワクチンを接種する機会がなく、免疫がなくなったままで大人まで過ごします。しかし諸外国では通常、さらに2回追加接種されます。いかに生後早期からワクチンを打ったとしても、周りの大人が感染していたら、赤ちゃんに感染してしまうことがあり得るからです。

海外の百日せき含有ワクチンの予防接種スケジュールと百日咳対策|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト(IASR 2017年2月号より引用)
2014年WHOの百日せきワクチン専門家会議が, 現在認められている百日咳の再興について, その原因と対策を検討するために開催された。その資料1)によると, 調査対象となった国々では, 定期接種の初回接種(小児期)において最低3回の百日せき含有ワクチンの接種が行われており, さらにそれらの国々のうち一部は3回目から1年以内に1回の追加接種を実施していた(表)。また, 初回接種の回数のいかんを問わず, 調査されたほぼすべての国で就学時前から小学校低学年の時期に1回のブースター接種が行われている。これらに加え, 一部の国では青年, 成人に対して青年・成人用破傷風・ジフテリア・百日せき三種混合ワクチン(Tdap)の接種が行われている。従って百日せき含有ワクチンの接種回数が最も多い国では成人までに6回接種していることになる。なお, Tdapは従来の沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DTaP)に比較してジフテリア毒素抗原量および百日咳抗原量が減量されている。


日本小児科学会は、諸外国と同様に、百日咳を含む三種混合ワクチンを、あと2回追加することを推奨しています。それらの時期は、

  • 小学校に入学前の1年間(MRワクチンと同時に三種混合ワクチンを接種)
  • 11歳頃(現在二種混合ワクチンがされているところを、三種混合ワクチンに)

となっています。



しかし現在は、これらは定期予防接種に含まれておらず、自費接種となってしまいます。11歳ではそもそも二種混合ワクチンがあるのですから、それを三種混合に変えてもほとんどリスクもコストも変わらないのですが……。


(流行時には)妊婦さんにワクチン接種を

もう一つは、今年のような大規模な流行になったら、出産前の妊婦さんに三種混合ワクチンを接種してもらうことです。現在の妊婦さんの多くは百日咳への免疫がないと思われますが、分娩前に免疫が成立すれば、抗体は赤ちゃんにも移行してくれるでしょう。



大きなリスクなく赤ちゃんを守れる有効な方法ですが、残念ながら、我が国の予防接種体制は脆弱で、このような時期に対応できるほど速やかに、ワクチンを生産することができません。
今年の流行に際し、当院でも接種希望があり妊婦さんにも接種しましたが、その後三種混合ワクチンの供給は流行途中で滞り、今なお流通が制限されています。


三種混合ワクチンの接種をご希望の方へ(2025年6月現在)

百日咳の流行はだいぶ収まってきた印象ですが、まだポツポツと疑わしい患者さんがいらっしゃる状況です。一時のような、妊婦さんへの接種を焦るような状況は過ぎましたので、ことさら不安を煽るつもりはありません。どちらかというと、今後悲しい思いをする人が減るように、予防接種制度を拡充していただきたいですし、流行時の妊婦さんの予防接種がもっと一般的になれば良いなと思っております。


日本小児科学会の推奨により、年長さん、11歳での三種混合ワクチンをご希望される方、
妊婦さん自身とそのご家族、新生児と接触する可能性があり、接種をご希望される方、
当院でも接種が可能ですので、お電話にてご相談下さい。



ただ、このようなことを書き連ねたところで恐縮なのですが、上にも書きましたように、三種混合ワクチンの供給は現在かなり少なく、ご希望をいただいてもすぐに接種することができません。
とくに妊婦さんで希望される方は、分娩の3週間前までには接種したいところですから、複数の病院に問い合わせてみるのも良いと思います。



WEB予約からは予約できませんので、お電話にてご相談下さい。
自費での接種(7,000円税込)となります。少なくとも年長さんでの接種は、無償化が望まれます。