よしだこどもクリニックのブログ

京田辺市三山木駅前 小児科医院のブログです

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アトピー性皮膚炎の適切な治療、新しい治療

こんにちは


アトピー性皮膚炎は小児ではメジャーな疾患の一つで、当院で診療させて頂いている患者さんも多くいらっしゃいます。


毎回、どのように治療していくのが適切なのかをご説明するのですが、意外に知られていなかったり、治療を続けて来られた方でも初めて知ったとおっしゃられることがあります。


新しい塗り薬、内服薬、注射薬もでてきておりますので、それも含めてお話させてください。


現在治療中の方も、行っている治療を再確認していただく機会になればと思います。


基本的なことがら

アトピー性皮膚炎では、皮膚炎とかゆみをうまくコントロールして、日常生活に支障がでないようにするのが、治療の一番の目的となります。


また、子どもの治療のためといって、親の生活を大きく削ってしまうのも良くないので、親が続けられる範囲で、症状と相談しながら落とし所を見つけるのが、医師の仕事だと考えてやっています。


治療内容があまり複雑にならないようにするのも大切ですね。

日常生活について

ホコリやダニが悪化因子になっているとは限りませんが、部屋の掃除は適切に行いましょう。神経質にならず、ものが落ちていない程度、ホコリが舞わない程度でいいと思います(子育て中はそれも難しい……よくわかります……)。


入浴は、重症度によりますがぬるま湯(38〜40℃)にしましょう。それ以上温度が高いと痒くなったりします。症状が強い患者さんには、湯船につからずシャワーだけをおすすめしています。


こすらないように、できたらタオルを使わず、石鹸を手で泡立てて洗い、簡単に汚れと汗を洗い流せればOKです。入浴のあとは早めに塗り薬の時間にしましょう。


なお、汗をかくことを避ける必要はありません。汗をかきすぎたときに着替える、シャワーを浴びる、ような対策を撮るのが良いでしょう。

食物除去は必要?ペット飼育はOK?

乳児では食物アレルギーがアトピー性皮膚炎に関与することがありますが、それ以上の年齢では不明です。「何かを除去したら皮膚炎が良くなるのではないか」という気持ちは大変よくわかるのですが、実際はそういうことはほとんどありません。


ですから、食品を摂取してあきらかに皮膚炎が悪化しないかぎり、食品の除去は勧められません。


一方、ペット飼育は悪化因子です。しかし、飼育している動物と離れるのは困難なので、個人的にはそこまで求めません。


ご家庭によって、生活区域をわける、寝室に入らせない、空気清浄機を導入する、絨毯やファブリックな家具を使わない、布団掃除(ダニ対策にもなります)といった対応ができると良いかもしれませんね。


なお、タバコは喘息と明らかな関連があるほか、親の喫煙が子どもに与える影響は多岐にわたりますが、アトピー性皮膚炎との関連についてはまだ議論がつづいています。


外用薬の塗り方について(🔥大事!)

塗る広さと塗る量がとても大切です。


「湿疹があるところにだけステロイドを塗っています」と言われることが結構ありまして、それがなかなか良くならない原因かもしれません。


ステロイドが悪い薬なんじゃないかと思ってできるだけ少量にされたり、そもそも処方されている薬の量が少なくて節約して使わないと持たない、というケースもあり、これは処方する側の問題もあるなと感じます。


塗る量は、チューブから出すなら「指先1関節分で、手のひら2枚分」、または「ティッシュが張り付く程度」といった言い方を良くしますが、それよりも「適切な頻度で塗ること」「思ったより広い範囲に塗ること」の方を重視しています。


個人的には、管理しやすさ・塗りやすさを優先して、できるだけ多めに壺にいれて処方することが多いですが、チューブのまま保管するほうがが衛生的なので、意見の分かれるところです。私の場合自分が極度の面倒くさがりなので、患者さんもきっと面倒くさがりなはずだ、という思い込みがあるのかもしれません(チューブでOKという方はお伝えください)


薬について

ステロイドについて

40年前に誤情報が流れて以降、なんとなく悪役のイメージの残るステロイド外用薬ですが、実際そんなことはないのでルールに則って適切に使いましょう。


ステロイドのランクは5段階ありますが、よく用いるのは2〜4段階のものです。


当院でよく用いる先発商品名を弱いほうから並べると、ロコイド(=アルメタ=キンダベート) < リンデロン(=ボアラ) < ネリゾナ、マイザー、アンテベート といったところです。ジェネリック医薬品だとどのランクが処方されているのか患者さんからはわかりにくいですね。気になったら聞いてみてください。


小児だからといって弱い薬剤を選ぶ必要はありません。適切な強さの薬剤を使って炎症を治すことが大切です。不十分な効果のものを延々と塗り続けるほうが副作用が心配です。


塗る回数は1日2回と処方箋には書くこともありますが、1日1回でもそう効果が変わるわけではありません。大抵のご家庭は忙しいので、1日1回でも十分とお伝えしています。


副作用として、長期連続使用したり、顔や陰部に使用するとステロイドによる皮膚炎がおきることがあります。ではどうすればいいのかということは、あとに書きます。



保湿剤について

白色ワセリンと、それを精製したプロペト、それからヘパリン類似物質(先発商品名ヒルドイド)がよく用いられます。


ヘパリン類似物質には軟膏からローション、スプレーまで多種ありますが、「伸びが悪い方がカバー能力が高い」と考えて概ね間違いではないでしょう。塗りやすさや子どもの好みで使い分けて良いと思います。


なお、炎症を抑える作用はないので、湿疹に保湿剤を塗っても効果はありません。


また、いかにもアトピー性皮膚炎をピタッと止めてくれそうな名前の某市販薬が存在しますが、内容は概ね保湿剤です。保湿だけで十分な肌の状態であれば問題ないですが、皮膚に炎症があるのであれば炎症を抑える塗り薬を使いましょう。必要な治療から遠ざかる結果になるのは良くありません。


プロアクティブ療法(🔥🔥とても大事!!)

ステロイドの使い方が定まっていなかった時代、必要以上に連続使用し、それによる皮膚炎を招いたりして、ステロイドが批判されたことがあります。でもそれはステロイドが悪かったのではなく、使い方が悪かったのでした。


ステロイドを塗って炎症を抑える→すぐにステロイドを止める→炎症が再燃する→またステロイドを塗る、というスパイラルに陥ると、最終的にかゆみから逃れられず、ステロイドの使用量も多くなってしまいます。


そこで現在は、「いったん炎症をしっかり抑えたら、できるだけその状態を長持ちさせて痒みのない期間を増やそう、結果的にステロイド使用量を減らそう」という方針に基づいて治療されます。この考え方を、プロアクティブ療法といいます。

アトピー性皮膚炎ガイドライン2024より引用

図にあるとおり、皮膚炎がある間はしっかりと、広範囲に十分な強さのステロイドを外用し、炎症を抑えるのが第一段階です。


そして最も大切なのは、皮膚状態が改善してからも「一定の頻度で」ステロイドを外用することです。


ステロイドを外用しない日には保湿剤を、できるだけ広い範囲に塗布します。


ステロイドを処方して「塗っておいてね!」だけでは、最適な治療にはならないのですね。(軽微な炎症の場合は、塗っておいてね!をやることはあります)

(注:ステロイドを塗る日には保湿剤は塗らないの?)
ステロイド外用薬の基材は主にワセリンなので、それ自体に保湿作用があります。ですから、基本的に保湿剤を重ね塗りする必要はないかなと思います。

別段重ね塗りしても問題はなく、その場合は塗る順番はどちらでもよい、とご説明しております。できるだけ考えることは少なくしたいですね。


近年の新しい外用薬

ここまで、ステロイドと保湿剤を適切な頻度で外用する「プロアクティブ療法」が、現在の最適とされる治療の中心であると書きました。


さらに現在では「ステロイドではないものの、ある程度の抗炎症作用をもち、ステロイドのように副作用を心配する必要のない外用薬」がいくつか誕生しています。


商品名でいうと「プロトピック」「コレクチム」「モイゼルト」といったものがそれに当たります。

「それならステロイドではなくてそれで全部治療すればいいんじゃないの?」と言いたくなりますが、実際につかっている印象ではステロイドよりも効果は弱く、急性期にはステロイドが必要になります。


これらの外用薬は(プロトピックを除き)「現在の最適な治療」のなかでどのような役割に位置づけるかまだ定まっていません。


プロアクティブ療法の中で、ステロイド・保湿剤・新しい外用薬の3つを上手に併用して、ステロイドの使用量を減らす方向性で導入がすすんでいるところです。


近年の新しい内服薬、注射薬

これまで書いてきたアトピー性皮膚炎の治療はすべて「今起きている炎症をなんとかして抑える」ことを目的とするものでした。


しかし近年、新しいアプローチで「かゆみや炎症が起きる前に遮断して抑える」という治療薬ができるようになってきました。これらは免疫を抑制する治療であり、対象はこれまでの治療で効果が不十分であった症例に限られます。

  • 内服薬:経口JAK阻害薬
    • (商品名リンヴォック、サイバインコ、オルミエント)
  • 注射薬:生物学的製剤
    • (商品名デュピクセント、ミチーガ、アドトラーザ、イブグリース)


いずれも効果的ですが、内服薬の副作用として感染症の増加が挙げられます。定期的にレントゲン写真と血液検査が必要になるため、当院では取り扱っておりません。


注射薬は2〜4週間に1回、病院で注射するほか、自宅で自己注射も可能です(当院では自己注射は今のところ取り扱っておりません)。副作用は内服薬よりは軽微ですが、種類によっては生ワクチンを避ける必要があります。


新しい治療薬の問題点

これらの新しい治療薬の最大の問題は、治療に要する費用です。保険による3割負担だけでも、月に数万円の費用がかかります(これは医療機関の収入にはなりません。製薬会社さんの研究開発費用を賄うため、このような金額になっています)


京田辺市および近隣の地域では、小児の医療費は一定額(200円または0円)ですので、小児はほぼ無料でこの治療が受けられてしまうのですが……その費用は健康保険やこども医療費助成制度で賄われるものですから、簡単に勧められる性質のものではありません。


使用にあたっては上記の治療をすべて行ったうえで非常に症状が強く、一定の条件を満たしている必要があります。それでも、症状を抑えられたらこの患者さんの人生が変わるのに、、、と思った場合に、このような治療があることを医師からご説明させていただいております。