こんにちは
世界各所で急速に新型コロナウイルスワクチン接種が進み、日本でもようやく、医療従事者対象に接種が開始されようとしています。
私達医療従事者は、近々接種がはじまる、ということのようですが、どのように進むでしょうか…。
さて、予想されていたことではありますが、気になる報道がいくつかあったこともあり、再び新型コロナウイルスワクチンについて書いておこうと思います。
↓この画像に、怖っ、と思った方は、最後まで読み進めてください。
これまでのデータを見る限り、このワクチンの有効性は非常に高いものがあります。
新型コロナウイルスの有効性は90-95%、つまり、接種した人が新型コロナウイルスに感染・発症する確率は、接種していない人の10~20分の1まで低下する、ということです。
一方で、新しい医薬品がなんとなく怖いという気持ちが世の中の一部にあるのも、これは致し方のないことです。
接種するしないは最終的に個人の選択ですが、正しい情報から判断してほしいですね。
たとえば今回のファイザー社の新型コロナウイルスワクチンは、接種部位の痛みや倦怠感、頭痛、筋肉痛などが比較的高頻度に発生しています。とくに2回めの接種で多いようですね。
これからは治験とは比べ物にならない多数の人、様々な背景をもった人が接種するわけですから、気づかれなかった副反応が顕在化する可能性も残されています。
逆に、一般的に、薬の市販直後は副反応が多く、次第に減少していくことが経験的に知られています。
ともあれ、こういう、「重大ではない副反応」は、そこそこ起きるようだ、という理解が必要です。
重篤で急激に起こる副反応として、アナフィラキシーがあります。
ファイザー社のワクチンでは190万人のうち21人で発症、モデルナ社のものでは400万人のうち10人が発症というデータが、これまでのところ出ています。これらは、例えばインフルエンザワクチンにおける発生率(100万人のうち1.3人発症)に比べると高いのですが、とびぬけて高い、というほどではありません。
発症した方々はすべて回復されており、また、予防接種の会場では早急に治療できるように薬剤が準備されています。
というわけで、非常に大雑把ですが、有効性とリスクについては、データが得られてきた状況だと思います。個人的な意見としては、メリットがデメリットを大きく上回っている、と感じます。
……もちろん、そう感じない方もいらっしゃるでしょう。
正確ではないですが、ひとつのたとえとして、「学校に子どもを通わせる」ことを考えてください。
学校に行くことには様々なメリットがありますね。勉強ができて、友人ができて、経験を積むことができます。そこで、「通学路には危険がいっぱい!」と言われても、いやいや、学校に通わせないという選択は普通とりませんよね。
これまでも、私たちは自然に、得られるメリットとデメリットを比較し、リスクを許容してきているのです。
次に、「飛行機に子どもを乗せる」ことを考えてください。船でもいいです。ちょっと、怖くなりませんか?実際には、飛行機のリスクも、船のリスクも、通学と大差がありません。
それでも何となく怖いと感じるのは人間の習性で、私たちの脳はもともと、日常的でないことのリスクを大きくとらえるようにできているんですね。

でもこのような脳の機能はときに、不正確な判断を誘発してしまいます。どうすれば判断ミスを少なくできるでしょうか。
そのための武器は二つ、データと、理性です。
私たちは、私たちの肌感覚で怖いと思うものでも、データを蓄積して、正確に数字で表現することができます。脳のエラーをできるだけ回避して、数字で判断することができるのは、現代の人間の強みだと思います。
じゃあ、数字はなんでも信用してよいでしょうか。残念ですが、そうではありません。逆に、数字を逆に利用して、怖くないものを怖いように表現して、耳目を引こうとする人たちがいます。
ですから、数字がただしいか、表現はただしいか、よく考えることが重要です。
かといって、自分ですべての情報を判断することは不可能です。ですから、前にも書きましたが、「その分野で仕事をしているひとがどう言っているか」を確認するのが良いと思います。
今回の新型コロナウイルスワクチンでいえば、最近も冒頭の画像のような報道があり、「その分野で仕事をしている」界隈では激しい抗議がおこっておりました。
アメリカでは、ワクチン開始後約2カ月の間に、接種した人の0.003%が、のちに何らかの理由で死亡したそうです。。。怖いですね!?!?
……
大前提として、この数字はワクチンで死んだ人、ではありません。ワクチンを接種したあとに普通になくなった人、事故でも何でも含みます。
まずそのことをご理解ください。ワクチンを接種したあとになくなる方は常にいます。今日パンを食べたあと亡くなった方がいるように。
さて、そのように、普通に何らかの理由で亡くなる人はどれくらいの割合でいるのでしょうか。それは、0.003%より少ないでしょうか、多いでしょうか。
アメリカで、ワクチン接種の対象になっている年齢層だと、男性では10万人中200-300人(0.2-0.3%)、女性では10万人中100-200人(0.1-0.2%)くらいの年間死亡率のようです。
2か月間だと、0.02~0.05%くらいの死亡率、という計算になりますね。
↓こちらのサイトで、数字を確認しました。2017年の数字です。
• Death rate by age and sex in the U.S. 2017 | Statista
……えっ、だとすると、0.003%って、すごく少ないんじゃないですか?
そうです。ちゃんと考えればこの数字は少ないんです。たぶん、全員が2ヶ月観察されてるわけではないので、その分差し引かないといけませんが、それでも低い数字です。
この数字は安心感を感じて良い数字なんです。でも、ニュースだけではそう思えません。そこが、問題なんですよね。
この場合は、自然の死亡率さえわかれば、数字が怖いのか安心なのか評価ができるはずなんです。でも、それなしにただ死亡の数字だけ報道しています。いくらニュースだからといっても、僕は非常によくないと思います。
こういう報道はたぶん、これからもいくらでも出てくると思います。ひとつひとつ反論は可能ですが、情報を受け取る側の能力向上も大切です。
ぜひ、こんな報道は馬鹿馬鹿しい、とても見る気になれない、読む気になれない、という人が増えるように願っています。
先日とある病院に訪れた際にすこし話題に上ったのですが、そこでは「いまの状況とデータでもって接種しないなんて選択肢は考えられない」という意見で一致しました。というかおおよその医師がそう考えていると思います。