よしだこどもクリニックのブログ

京田辺市三山木駅前 小児科医院のブログです

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コロナウィルスのワクチンについて

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こんにちは。大変悲しいことに、増えた体重が戻りません。

 

 

それはともかく、先日、このようなニュースがありました。f:id:ykidsc:20200620185410p:plain

大阪・新型コロナ開発中のワクチン30日に治験開始へ 吉村知事「コロナとの闘いを反転攻勢させたい」(THE PAGE) - Yahoo!ニュース

新型コロナ、全国初のワクチン治験を開始へ 大阪大など [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

 この情報について、当該のアンジェス社広報は「弊社から発表したものではありません」と表明されています。

 AnGes|広報BLOG

 このことについて、少しお話をさせてください。

 

予防接種の信頼性 

私たち医師は、予防接種を皆さんに接種していただくように、普段からお勧めしています。

 

それは、予防接種が一定の確度で、ある感染症に感染する可能性を下げたり、感染したときに重症化したり後遺症を残したりする可能性を下げる、そのようなデータが揃っているからです。

 

また、接種したときの安全性が担保されている、副反応はあっても軽微なものであって、得られるメリットのほうが段違いに大きい、という確証があることも重要です。

 

もうひとつ、社会全体として、感染を防ぐことで得られるメリットが、予防接種を製造して接種するまでのコストを上回っていることも欠かせません。

 

これらは、予防接種が一般に接種されるための重要な条件です。大事なことなのでまとめさせてください。

 予防接種の条件

1 感染 / 重症化 / 後遺症 の可能性を下げるという厳密なデータがあること
2 重篤な副反応がなく、得られるメリットのほうが大きいこと
3 接種にかかるコストより、得られるメリットのほうが大きいこと

 

ワクチンの開発でこれらの条件を満たすことは非常に難しく、市販されてからも常に調査対象となっており、期待されながら開発に失敗したワクチンや、市販後に問題を指摘されて中止されたワクチンがあることを私たち医師は知っています。

 

このような厳しい条件のもとに開発され、効果を監視され続けているワクチンだからこそ、わたしたちは全力で信頼して、皆さんにお勧めすることができるわけです。

 

例えば、小さな子が感染すると重症化率の高いRSウィルスのワクチンは、1960年代に開発が試みられたのですが、 接種したほうが重症化率が高い という結果になってしまい、中止されました(これを「抗体依存性感染増強」といいます)。

 ロタウィルスのワクチンは、一度実施が始まったものの 副反応が問題となり実施が中止され 、安全性をしっかり確かめた現在のワクチンが開発された、という経緯があります。

(そういうこともあるんだ、ということを是非知っておいていただきたいです)

 

大阪の開発グループ周辺の懸念

現在開発中のコロナウイルスに対するワクチンですが、全世界で多くの候補が競って開発を続けています。


大阪のこの会社と大阪大学などの連携グループも開発しているわけですが、やや政治側のほうが、上記のようなワクチン開発の困難さと厳しい条件、というものを踏み越えて、勇み足とも思えるような方針を示しているように感じられます。

 

上記の記事では「ワクチンは完成し動物実験で安全性が確認された」となっているのですが、そのデータはまだ公開されていませんし、動物実験で安全性が確認されたからと言って、人間でも同様に安全であるとは限りません。

 

「抗体ができた(免疫ができた)」ということは公表されていますが、それで感染率や重症化率が予想通り下がったのかどうかも、公開されていないはずです。上記の通り、接種したほうが逆に危険という可能性もあるので、外部から見ている人間にとっては不安もあります。

 

うまくいけば喜ばしいニュースだとは思いますが、医師としては不安視、疑問視している意見もあり、慎重に見守っているのが現状です。

 

そんな段階で、大阪の行政や政治家の方が、「市立大病院の医療従事者を対象に治験を行う」などと言い出したものですから、これには不安を通り越してややあきれ、怒りに近いような気持ちを持った医療従事者が多かったのです。


というのも、開発途中のワクチンが本当に安全なものとは限らないわけで、それをいわば「社長」が「部下」に対して半強制的に「実験に協力してくれ」、などということは、本来許されないことだからです。

 


このような場合、自発的に同意、拒否できるよう慎重に、十分に配慮しなければなりません(これは「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」44条とそのガイダンスに記載されています)。

 

本人の意思で治験に協力してくれる人を募り、危険を冒すことに対して相応の報酬を払う必要があると思います。

 

ワクチンの信頼性を保ち続けるために

先に書いた通り、私たち医師は、ワクチンの効果と安全性を信頼しているからこそ、皆さんにお勧めすることができます。その信頼の源は、厳格なルールに則った開発と、常に実施されている厳しい監視です。

 

もちろん、現在の切迫した状況ですから、開発を急ぐ必要がありますし、そのために予算を集中的に投入することまでは、政治の役割だと思います。

 

しかし、まだ効果も安全性も確かめられていない、公開されていないワクチンの開発について、開発に期限を区切ったり、公務員を半強制的に治験の対象者にするかのような発言をすることは、ワクチン開発の信頼性を損なうものだと思います。

 

 

私個人としては、世界中が困っている中での大切なワクチンですから、ぜひ国産で成功してほしいと思っています。

 

しかしこのワクチンはDNAワクチンという、未知の手法を使ったワクチンでもあります。

開発の難しさという懸念に加え、日本にはワクチンを無差別に拒否するグループもありますから、「DNA」や「遺伝子」といったワードをターゲットに、おそらく集中的に攻撃してくるのではないかと思いっています。

 

 

だからこそ、開発は慎重に行い、正しく信頼性のある太いデータを作ってから、実施に踏み切ってほしいと思います。その間に、開発チームに政治的なプレッシャーを与えることは、ワクチンの信頼性を損ないます。

 

ワクチンを手柄のように考えるのではなく、治験は焦らず、倫理面にも手堅く配慮して行ってほしいと、考えているのです。

 

ところで、

帰ったらこれを始めます

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