こんにちは。
前々回、気管支喘息の発作が起きたときの治療について、基本的なことを書かせていただきました。
気管支喘息ってどんな病気?(1)喘息発作の治療 - よしだこどもクリニックのブログ
2017/10/15 追記 続きを書きました
気管支喘息ってどんな病気?(3)「喘息のケ(気)がある」とは、どういうこと? - よしだこどもクリニックのブログ
追記終わり
実のところ、こういった喘息の治療のしかたは、医師によって大きく変わることは基本的にはありません。
どのような治療方針が一般的に勧められるのか、という点については、これまでのデータがまとめられて診療のガイドラインとなっているからです。
他の病気でも同じですが、ガイドラインは基本方針ですから、一つの画一的な方法が定められているわけではありません。また、「これが正しい、他の治療はダメ」という性格のものではありません。
しかし、これまでの治療に関するデータを積み重ねた上での専門医の共通意見ですから、基本的には重視しながら診療に当たります。
ガイドラインをもとにしつつ、個別の患者さんの病状や、ご家族の意見や状況などにあわせて、臨機応変に対応していくわけですが、大きく逸脱しないかぎり、全国どこの医療機関であっても、基本的には同じ方向性で治療されることになります。
ということで、前々回の続き、「喘息発作が起きないようにするにはどうするか」の基本方針は、どのようなものでしょうか。
気管支喘息の予防とは?
生活環境を整える
まず基本的なこととして、生活環境の因子を調整することがとても大切です。
- 妊娠中を含めて、タバコの煙に曝露されないようにすること。
- ダニ、ホコリとの接触を回避すること。
- ウィルス感染を予防すること。
いずれも、現実的にはなかなか、難しいこともあるのですが、しかしタバコの害については最近だいぶ周知されてきたように思います。ただ、最近話題の「加熱式タバコ」の毒性については、まだ十分に評価されているとはいえません。少なくとも、加熱式タバコに変えたから周囲の害はゼロ、とは言えないはずです。まず禁煙するという選択肢が最優先であることには変わりはないでしょう。
生活環境を整えるといっても、例えば喘息だからと過剰に運動を控えるとか、皆が一緒にやることをこの子は休みますとか、そういうことは、望ましいことではないと思います。
なにも治療しなければそのように制限しないといけない患者さんを、できるだけ普通の生活ができるようにするためにこそ、予防治療があるのです。
薬物による喘息予防
気管支喘息の発作が一定の頻度以上で繰り返すとき、私たちは「予防治療を行いましょう」と提案します。
前回説明したように、気管支喘息の方の気道には、慢性的に起きている「炎症」がありました。発作のときだけではなく、いつも、気道がジクジクと腫れているのです。これに何かのきっかけが加わると、すぐに空気の通り道がなくなって、気管支喘息の発作に至ります。
予防治療では、この慢性的な炎症を軽減するような投薬を行います。
どうして、発作が起きるたびにその都度治療する、という方針では良くないのでしょうか。
これは、慢性的な炎症の持続や、発作の繰り返しによって、気道の構造が変化し(リモデリングと言います)、呼吸機能が低下してゆくおそれがあるためです。
また、「発作が起きるかもしれない」と心配して子どもの生活を制限するよりも、投薬によって、不安なく普通に活動できる生活を手に入れることが、子どもの生活の充実、健康な発達にとって大切なことだと考えられます。
実際の投薬内容
長期的に予防する手段のひとつは内服で、オノン(プランルカスト)、キプレス・シングレア(モンテルカスト)といった抗アレルギー薬があります。
このような内服薬は喘息発作のときに短期間用いることもありますので、よく見かけられることがあるでしょう。本来はこのように長期間用いるための薬です。
もう一つの予防手段はステロイド薬の吸入です。小学生以上くらいであれば吸入キットを使っていただき、それ以下の場合は、吸入器を自宅に用意していただいて液体で吸入していただきます。
小児科では吸入器を用いることが多いので、このような液体で処方することが多いです。
だいたい小学生以上であれば、成人と同様に、このような吸入キットを用いて吸入できるようになってきます。
状況によりけりですが、基本的にはガイドラインに従い、5歳以下であれば抗アレルギー薬を毎日の抗アレルギー薬内服をはじめに提案しますし、6歳以上ならステロイド吸入を先に考えることになると思います。
副作用は?
ステロイド吸入の開始時には成長の抑制や、体内で自然に分泌されているステロイドへの影響などの副作用を考える必要がありますが、現在のデータでは、通常量の使用であれば、大きな影響は無いとされています。
私としては、副作用を過度に心配するよりも喘息発作を抑制するほうが大切なことであると考えますし、そう思えるほどの発作頻度の場合に、予防治療をおすすめしています。
大切なことは、発作が起きるようであればステップアップ(抗アレルギー薬とステロイドを併用したり、ステロイドの量を増やしたり)したり、長期間うまくコントロールできるようであればステップダウンしたりして、治療のレベルを患者さんの状態に合わせ、最低限の治療で発作がない状態を維持することです。
他の手段として、「咳止め」は喘息発作のときも予防の場合も使ってはいけない薬です(ですので、「咳止め下さい」と言われると、ごめんなさい、という気持ちになります。発作時の咳を完全に止めてしまうのは難しいことです)。
また、「メプチン」のような発作時につかう気管支拡張薬がありましたが、これだけを長期に用いることは、副作用の観点などから避けるべきとされています。
気管支拡張の貼付け薬、「ホクナリンテープ」を咳止めと称して連用されるケースも散見されますが、これも副作用の観点から、「必ず吸入ステロイドと併用して使用(連用)されるべき」とされています。
これらの投薬が行われるようになって以降、入院するほどの大きな喘息発作を経験することは明らかに減りました。乳児にステロイド吸入を使用できるようになったはじめのころを思い出すと、本当に劇的な変化だったと思います。
いまの状況からは想像しづらいのですが、20年ほど前までは、喘息は命取りになることがある病気だったのです。
次は「喘息の気がある」と言われるのはどういう状況なのか、という話をしたいと思います。個人的には、「喘息の気がある」という言い方はしないのですが、じゃあどう説明すれば良いのかというと、、、難しいと感じることが多いです。