よしだこどもクリニックのブログ

京田辺市三山木駅前 小児科医院のブログです

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インフルエンザの迅速検査をするかどうかの判断って、難しい

こんにちは。

 

新型コロナウィルスは話題にはなっていますが、私としては専門の先生のこのような見解が共有されればよいなと思っております。

 

新型コロナウイルス、メディアは危険性を強調しすぎ? 専門家「日本の感染拡大予防策はおおむね成功」

 2020/02/07(情報は2/05時点に基づく)

 

その背景で、今年のインフルエンザウィルスはかなり低調です。これには暖冬が影響しているかもしれません。

とはいえ、これを書いている今日は雪で、ようやく本格的な寒気がやってきたので、これから流行の山がくるかもしれません。

 

病気で頭を冷やしている人のイラスト

インフルエンザの迅速検査をするかどうかの判断

同じようなことを去年にも書いたと思うのですが、インフルエンザの迅速検査をするかどうかの判断って、実はとても難しいです。

 

すごく簡単な話として、絶対にインフルエンザではないと最初からわかっていたら、検査はしないですよね?

同じように、絶対にインフルエンザだとわかっているときも、検査はしないと思います。

・・・どうでしょう?微妙ですか?

 

例えば、ご両親がインフルエンザになっていて、そのお子さんが翌日から40℃発熱、とてもつらそう、といった状況です。この状態ではあまり進んで検査をしたいとは思いません。

インフルエンザの迅速検査は感度が悪くて、1~2割の見逃しが発生します。ですから、上記の状態で結果が陰性になったとしても、この子はインフルエンザとして扱い、治療することでしょう。

ボールを見逃すバッターのイラスト

このように、インフルエンザの可能性がかなり高い(これを、事前確率が高い、と言います)ときには、迅速検査をしても結果を信用しない、という状況になります。

迅速検査をしても、結果如何でやることが変わらないなら、検査は最初からしない、というのが「原則」ではあります。

 

とはいえ、「インフルエンザだと検査でわかったら対策も立てやすい」「陰性だったら解熱後すぐに登園させられる」「園を休む期間に影響するのではないか」「園から検査をするように言われている」といったご意見も多く、そのお気持ちは大変よくわかります。

 

しかし、インフルエンザ迅速検査は1~2割を見逃す、ということを思い出してください。

先述のお子さんは、たとえ検査が陰性であってもインフルエンザとして扱って対策を立てるべきでしょうし、仮に検査が陰性であっても、解熱後すぐに登園することは許可できません。

園を休む期間については、検査は行わなくても、医師の診断によって出席停止が判定されます。診断の一助として迅速検査を行うことがありますが、必要ではありません。

園のほうも、本当に欲しいのは迅速検査の結果ではなくて、医師がインフルエンザと診断したかどうか、ではないでしょうか?

 

わさびで鼻がツーンとする人のイラスト(男性)

と、このように検査しない理由を並び立てていますが、べつに検査くらいしてもいいじゃないか、という意見もあると思います。

しかし、子どもの場合をとくに考えていただきたいのですが、「いやがる子どもを羽交い締めにして」「鼻に綿棒を突っ込む」というのは、私が医師でなければ拷問です。子どもがいかに検査に恐怖を感じるかということは、もっと考えられるべきだと思っていますし、検査することによるダメージは結構ある、と思います。

 

予防接種でも同様ですが、できるだけ子どもに意義を説明する、まだわからない子であっても必ず終わったらほめる、抱きしめる、といったことには気を使うべきですし、そもそも検査が不要ならできるだけ回避したい、と考えています。

 

(鼻をかむことができる子には、出していただいた鼻水で検査をすることもしています。しかしこれは感度が少し落ちるという問題もあります。)

(また、平気な子どもや成人であればどんどん検査してよいかといえばそういうことでもなく、無意味な検査は慎むべきであろうと思います。)

 

ということで、診察してみて検査が有意義だと思えば躊躇せず検査を行いますが、意義が微妙だと思えば保護者さんにご相談するようにしています。

「えっ、検査しないの!?」と思われるかもしれませんが、上記のような考えでいることをご理解いただければなあ、と思っています。

 

■

利益相反はありません

もう一つ、この話題をするに避けて通れない観点に、お金の話があります。 私がこういう話をするのに利益相反(COI)はないか、簡単に言うと、「検査しないほうが収入が増えるからそう主張しているんじゃないか」という問題です。

 

(じつは私も開業してみるまで知らなかったのですが)小児科の開業クリニックの報酬請求の仕方には2通りがあります。

その1:診察料と、検査した分の検査料を、単純に積み上げて請求する

その2:計算をシンプルにするため、どんな検査をしても診察料は一定額。検査をしても報酬は増えない。

 

当クリニックは「その1」のパターンです。悪い言い方をすると、検査をするほうが報酬は増えます。ですから、私は悪い意図で上記のようなことを言っているわけではありません、ということでした。

 

ただし!私の知る限り、お金のことに執着する小児科医はいません(お金に執着する人間は小児科医にはなりません、と換言できなくもありません、、、💦)。ほとんどの小児科医は、「その1」か「その2」かに関係なく、自身の判断基準にのっとって検査するしないを検討し、お勧めすると思いますので、受診された医師の判断に従っていただければと思います。

 

最近読んでいる本

これは中学高校のころに何度も何度も繰り返し読んだ本で、自宅の書架にまだ古びた文庫本を残しているのですが、ふと思いついてKindle版を購入してしまいました。

どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)

どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)

  • 作者:北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1965/03/02
  • メディア: 文庫
 

例えば医師になった理由として手塚治虫の「ブラックジャック」を挙げる医師は多いと思うのですが、私の場合は多分にこの本の影響を受けています。というと中身を知っている人からは信用を失うかもしれません。

 

この書は小説家であり精神科医でもあった北杜夫氏が、ひょんなことから遠洋航海の船医となり世界を旅した紀行録、ですが少なくともこの書では、氏が医師として仕事をしている場面はほとんど描かれません。

 

そもそも密航のために船医になったのだと主張し、物見遊山で各地の港の猥雑な喧騒の中をぶらつき、趣味人として船旅をし、酒を飲み、博物館に行ったと思えばキャバレーにも行き、、、まあ少年のころの私がどんな気持ちで医師に憧れ志したのか、改めてわかろうというものであります(そして改めて読んで夢中になっているという)。